「白内障手術」見え方に慣れるまでどのくらいかかる?|術後の脳の順応について【医師監修】

2025/07/16

「白内障手術」見え方に慣れるまでどのくらいかかる?|術後の脳の順応について【医師監修】

はじめに

白内障手術後、「視力は回復したのに、なんだか見え方に違和感がある」と感じる方が少なからずいらっしゃいます。これは、目そのものの問題ではなく、“脳が新しい見え方に慣れていない”ことが原因である場合が多いのです。この記事では、術後に起こる「脳の視覚順応」について、仕組みと慣れるまでの期間、違和感への対処法などを眼科専門医の見解とともに解説します。

視力が回復しても違和感がある理由

白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、人工眼内レンズ(IOL)に置き換えます。これにより視力そのものは大きく改善されますので、今までの見え方とは異なる見え方になります。白内障で濁ってしまった水晶体を取り除くことで、視界はクリアで明るくなりますし、コントラスト感度も改善して色が鮮明になります。また、低下していた視力も改善しますし、特に多焦点眼内レンズを使用した場合は、白内障と同時に老眼も改善できるため、手術前と手術後で見え方に大きな変化が加わることになります。手術後の見え方が安定するには、手術後の新しい見え方に脳が慣れる(脳の視覚順応)必要があるのです。

脳の“視覚順応”とは何か?

人間の脳は、視覚から得られる情報を処理し、「見ている」と感じさせています。手術によってレンズが変わると、視覚の入力情報が急激に変化し、脳が再適応するまでに時間がかかることがあります。この脳の適応能力を「視覚順応」といい、特に多焦点眼内レンズは白内障と同時に老眼も改善できるメリットがあるため、この順応が必要不可欠です。

慣れるまでの期間はどのくらい?

単焦点レンズ:数日〜1週間程度で違和感が軽減することが多い

多焦点レンズ:平均して1ヶ月~3ヶ月、場合によってはそれ以上かかることもある

特に、夜間の光のにじみ(グレア・ハロー)や、ピント合わせの感覚に慣れるまでには個人差があります。

医師のコメント:

「違和感があっても“異常”ではありません。脳が順応する期間を過ぎると、多くの方が自然に慣れていきます。時間をかけて新しい見え方に慣れる“訓練”と思ってください。」

新しい見え方に慣れるための注意点

・両眼で見る習慣をつける(単眼よりも順応が早まる)

・明るい環境で過ごす(視覚情報の質を上げる)

・スマホや読書など、日常的に目を使う作業を積極的に行う

・見やすい距離を覚えておく

・焦らないことも大切です

よくある質問(FAQ)

Q1. 遠くは直ぐに見えるようになりましたが、近くがまだ見づらいです。
A. 多焦点レンズの場合、遠方視力から改善していく傾向がありますので、徐々に近方も見えるようになってくるようなイメージだとお考え下さい。少しずつ見えやすい距離を探していくことも、新しい見え方に慣れる手助けになると思います。また、明るいところで、両目で物を見るように心がけてください。

Q2. 細かい文字を読むときに眼鏡を使ってもいいですか?
A. 暗い所や細かな文字を読む際は、眼鏡を使用することも有効な手段です。人間の目は機械ではないので、同じレンズで手術をしても、人それぞれ見え方や感じ方は微妙に違うものです。もともとの視機能に関係していることもありますので、眼鏡を使用することで、その視機能を補ってくれることもあります。

Q3. 年を取ってからだと視覚順応が遅くなりますか?
A. それは十分に考えられることです。年を取ると筋力や体力が衰えるのと同じように、目にも老化現象が現れます。老眼、飛蚊症、白内障などは、目の老化現象の代表格といえますが、それ以外の病気にもかかりやすくなります。最近は、白内障と同時に老眼も治療できる多焦点レンズが注目されていますが、手術後の新しい見え方に慣れることが1つのポイントでもあるので、あまり高齢になってからよりも、早い段階で手術を済ませたほうが、新しい見え方への順応も早いと思います。

まとめ

白内障手術後の「見え方の違和感」は、脳の視覚順応によるもので、多くの方が時間とともに慣れていきます。特に多焦点眼内レンズを選んだ場合は、見え方の“質”が変わるため、脳が順応するまで多少の時間を要することは普通の経過です。焦らずに、目と脳の“慣れ”を待つことが、快適な視界への第一歩です。不安がある場合は、必ず専門医にご相談ください。

監修者

冨田実
冨田実
冨田実アイクリニック銀座院長
医療法人社団 実直会 理事長
医学博士/日本眼科学会認定眼科専門医
アメリカ眼科学会役員
温州医科大学眼科 眼科客員教授
河北省医科大学 眼科客員教授